ogurakaikei’s ブログ

会計・税務及び経済関連(時々雑談)

産業分析から見る生産ネットワーク(3/6)

 携帯電話及びスマートフォンの生産について歴史的な経緯を整理します。

 1990年代半ば頃から、テキサス・インスツルメンツ(TI)やADI、フィリップス等の欧米の半導体メーカーが、ベースバンドチップ(信号処理部)、RF(無線部)といった中核チップセットプロトコル・スタックをセットにし「プラットフォーム」として販売するようになりました。これにより、通信システムに係る技術知識を持たないメーカーでも中核技術を外部から調達して携帯電話の生産に参入できる環境が出現しました。この動きを捉えて1990年代前半から半ばの時期にいちはやく携帯電話の生産に参入したのが、韓国と台湾のメーカーでありました。少し遅れて1990年代末頃から、中国企業も活発な参入を開始しました。

 特に台湾では、1990年代末から2000年代初めにかけて、携帯電話端末の生産への参入が活発に起きました。台湾携帯産業の初期の主役となったのは、パソコン大手のエイサーからスピンオフしたPC周辺機器メーカーのBenQであります。同社は1997年に台湾企業として初めてGSM(第2世代携帯電話機の通信方式規約の一つ)端末の製造を行いました。2000年代になるとノートパソコン受託生産大手のクアンタ、コンパル、インベンテック等も製品多角化の一環として携帯電話端末の製造に参入し、IT機器の受託生産で培った製品開発力、量産化を生かして、欧米や日本の端末メーカー向けの受託生産を行いました。この時期までにPC関連機器の生産で世界的なEMS(電子製品受託生産)企業に発展していた鴻海精密工業も2002年に傘下のフォックスコンで携帯電話の製造を開始しました。このように台湾では、1990年代に急成長を遂げたパソコン及びその関連製品の受託生産企業が携帯端末の生産の担い手となりました。これを反映して、2000年代初頭の台湾の携帯電話端末の出荷台数に占める受託生産の比率は8~9割の高さに達していました。この時期、モトローラソニーエリクソン等は、急拡大を遂げる新興国市場向けに、多様な低価格機種を迅速に投入する戦略とっており、これが受託生産を通じた台湾の端末メーカーの成長を後押ししました。つまり、台湾企業は、国際分業体制の中で特定の範囲を受け持つ戦略ととることで、携帯電話産業への参入と成長を遂げたのであります。台湾企業は、スマートドンのHTCのように、自社ブランド事業に力を入れて一時的にある程度の成功をおさめた企業もあるものの、台湾企業のプレゼンスはもっぱら受託生産において顕著であります。アップルのiPhoneの生産パートナーとして名高い鴻海精密工業は、その代表例であります。特に鴻海精密工業はアップルのiPhoneの受託生産を手掛けて急激な成長を遂げ、2017年第4四半期には、サムスン電子を抜いてスマートフォンの生産台数で世界首位となっています。

 

産業分析から見る生産ネットワーク(4/6)に続きます。

 

参考文献

・東アジア優位産業(中央経済社

日本経済新聞