マーケティングや事業企画でKPI(重要指標)を設定する場面では、NPS(ネット・プロモーター・スコア)と客単価がしばしば登場する。
どちらも売上や利用者満足度を高めるために有効な指標だが、その意味や使い方を改めて整理してみると、思った以上に活用範囲が広い。
ここではNPSと客単価について、それぞれの概要と使いどころを紹介したい。
1. NPS(ネット・プロモーター・スコア)
NPSとは?
NPSは、コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーによって開発された指標で、顧客(またはユーザー)のロイヤルティ(愛着や推薦意向)を数値化するものだ。
- 「この製品(サービス)を友人や知人に勧めたいと思いますか?」
といった質問を10点満点で答えてもらい、- 9~10点を付けた「推奨者(Promoters)」
- 7~8点を付けた「中立者(Passives)」
- 6点以下を付けた「批判者(Detractors)」
に分類し、推奨者(%)-批判者(%) で計算するのが基本ルール。
NPSの最大値はプラス100(全員が9~10点)で、最低値はマイナス100(全員が6点以下)。
「推奨者」と「批判者」の差が大きいほど「薦めたいほど好き!」という人の割合が高いということだ。
KPIの見方
NPSをKPIにする場合、
- いまNPSがプラス5なら、プラス10を目指して改善策を講じる
- もしくは現状を維持することが精一杯なら、NPSゼロを死守する
というふうに使う。
一般にはNPSがプラスなら「そこそこ優良」と見なされがちだが、業界や企業特性によって平均値は大きく変わる。海外の外資系企業などはNPSが高い傾向があるため、競合と比較したうえで目標値を設定するのがよい。
使い方と注意点
NPSを見て終わりにするのではなく、
- 高評価(9~10点)のユーザーがなぜ推奨してくれているのか
- 低評価(6点以下)のユーザーは何に不満を感じているのか
を定性的に掘り下げることが大切。NPSのスコアが上がるように無理やり「高い点数つけて!」と誘導するのは本末転倒。ユーザーが本当に価値を感じるサービス改善につなげるのが狙いだ。
2. 客単価
客単価とは?
客単価は、顧客が1回の購入(利用)あたりに支払う金額を指す。
飲食店や小売店はもちろん、年パスやサブスクリプションのように一定期間で考えることもある。
例えば「1回あたり○○円」という数字がわかれば、
- 立地や客層にあわせて値段設定を見直す
- メニューや商品ラインナップを高付加価値に変更する
- まとめ買い・セット販売で1回あたりの購入金額を上げる
などの施策を検討できる。
KPIの見方
客単価をKPIとする場合、たとえば
- 「今度の新店舗は高所得者が多いエリアだから、客単価5000円を目指そう」
- 「客単価を20%アップして売上増を狙おう」
というように設定する。
売上は「客数 × 客単価」で算出されるため、客数アップが厳しい状況でも客単価を高める工夫をすれば売上全体が伸びることがある。
高級路線にシフトしたり、付加価値の高い商品を揃えたり、セット販売で2つ目3つ目をつい買いたくなる仕掛けを設計するのも定番だ。
使い方と注意点
- 新規出店で客単価を見積もるときは、類似の店舗を参考にする。たとえば駅前の好立地なら少し高めに設定するかもしれないし、逆に競合が安価なファストフードなら大幅に客単価アップは難しいかもしれない。
- 客単価は購買頻度(リピートの回数)ともあわせて見る必要がある。たとえ1回の客単価が高くても、購入回数が減ってしまえば結局売上は伸びない。いわゆる「RFM分析」(Recency, Frequency, Monetary)などで客の購入履歴をチェックし、客単価向上策とリピート対策をバランスよく進めることが大切だ。
3. NPSと客単価を組み合わせて見るとどうなる?
NPSと客単価は性格の違う指標だが、実は両方を追うと、顧客満足度の向上⇒リピート購入⇒客単価アップという好循環を作りやすい。
- NPSが低いまま客単価を上げると、ユーザーから「値段ばかり高くなった」的な不満が噴出する可能性がある。
- NPSが高い状態(顧客ロイヤルティが高い)なら、値上げや高額商品提案をしても、ある程度受け入れられやすい。
たとえば飲食店なら、接客や料理のクオリティに顧客が満足してNPSが上がっていれば、単価アップのスペシャルメニューを導入しやすい。
逆にNPSが低いのに価格だけ上げると、リピーター離れや悪評リスクが大きくなる。
まとめ
- NPSは顧客ロイヤルティを数値化する指標。顧客に「どれだけ薦めたいと思われているか」を計測し、その結果をサービス改善につなげる。
- 客単価は1回の購入当たり金額のこと。新店舗の出店戦略や価格設定、商品ラインナップを考える上で欠かせない指標。
- NPSと客単価の組み合わせで見ると、単に価格を上げるだけでなく、顧客満足度を高めてロイヤルティを維持しながら売上を伸ばす戦略が立てやすい。
どちらの指標も数字だけでなく、「なぜこの数値になっているか」「どうすれば改善できるか」を深掘りするのが本当の狙いだ。
NPSのアンケートコメントや客単価の変動要因を分析しながら、より良い顧客体験を目指していこう。