ogurakaikei’s ブログ

会計・税務及び経済関連(時々雑談)

ソフトバンクの決算書を覗く

前回は、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほ)が楽天との提携を通じて、リテール分野で「カード×証券×ポイント経済圏」を一体強化する動きを分析した。

 

みずほにとっては、楽天カードや楽天証券の巨大な個人顧客基盤が魅力となり、まさに「楽天経済圏」を取り込む形でリテールビジネスの拡大を狙っている構図が浮き彫りになった。

 

一方で、楽天と同様に通信事業を持ち、金融サービスとの親和性を高めるポジションにあるのがソフトバンク(以下、ソフトバンク)である。

 

ただし、投資色が強いソフトバンクグループ株式会社ではなく、通信事業会社としてのソフトバンクに焦点を当てると、みずほ×楽天とは異なるビジネスモデルや成長戦略が見えてくる。

 

なぜ「みずほ×ソフトバンク」という選択肢には至らなかったのか。

 

あるいは、すでにグループ内で「PayPay」や「LINEヤフー」を抱えるソフトバンクは、通信×金融×メディアをどのように拡張しているのか。

 

今回のブログでは、2025年3月期 第2四半期決算を中心に、ソフトバンクの現状を俯瞰する。

 


1. 「ソフトバンク」と「ソフトバンクグループ」の違い

まず整理しておきたいのは、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)とソフトバンクグループ株式会社(以下、SBG)の違いである。

  • ソフトバンク
    国内通信(モバイル・固定通信)事業を中核とし、「PayPay」や「LINEヤフー」などのデジタルサービス、法人向けICTソリューションを手がける事業会社。メディア・ECやファイナンス事業まで幅広く展開し、投資主体ではなくオペレーション主体で稼ぐ。

  • ソフトバンクグループ
    ビジョン・ファンドなどを通じて世界的な投資事業を展開する持株会社。近年はArmの上場が大きな話題となったが、投資会社としての色合いが強い。

今回着目するのは、あえて投資会社ではなく通信事業会社としてのソフトバンクが、どのように決算を伸ばしているか、そして「みずほ×楽天」連合と対比するとどのような特徴が浮かび上がるかという点である。

 


2. 2025年3月期 第2四半期(上期)の決算概要

ソフトバンクが2024年11月8日に公表した、2025年3月期 第2四半期(2024年4~9月)の連結業績は以下のとおり。

  • 売上高:3兆1,521億円(前年同期比+7%)
    全セグメントで増収となり、上期としては過去最高を記録している。

  • 営業利益:5,859億円(前年同期比+14%)

  • 親会社の所有者に帰属する純利益:3,239億円(前年同期比+7%)

上記は期初予想に対して好調な進捗を示しており、売上高の通期進捗率は51%、営業利益と純利益は65%に達する。

 

さらに通期業績予想を下記のとおり上方修正している点が注目される。

  期初予想(2024年5月時点) 上方修正後(今回) 増加額 増加率
売上高 6兆2,000億円 6兆3,500億円 +1,500億円 +2%
営業利益 9,000億円 9,500億円 +500億円 +6%
親会社の所有者に帰属する純利益 5,000億円 5,100億円 +100億円 +2%

セグメント別トピックス

  1. コンシューマ事業
    前年同期比+3%増収、+4%増益。スマホ契約数の拡大や、ワイモバイルからソフトバンクへのブランド移行が上期で初のプラスに転じたことが寄与している。

  2. エンタープライズ事業
    前年同期比+11%増収、+12%増益。AI・クラウド・ネットワークソリューションなど法人向けICTビジネスが堅調。

  3. ディストリビューション事業
    前年同期比+44%増収、+20%増益。AIサーバー販売などが急拡大し、IT商材を流通させる「商社」機能が強まっている。

  4. メディア・EC事業
    前年同期比+5%増収、+40%増益。一過性要因を除いた実質増益率は16%。ヤフーやLINEの広告、ECコマースの収益性改善が数字を押し上げた。

  5. ファイナンス事業
    前年同期比+19%増収、営業利益は-20億円から+136億円へ黒字転換。
    ここにはスマホ決済「PayPay」も含まれており、PayPay連結の営業黒字化が大きい。

PayPay(株)

  • 上期連結売上高は1,165億円、EBITDAは196億円で、2期連続の営業黒字達成となった。認知度と加盟店数の拡大、コスト意識の徹底が奏功している。

3. みずほが「楽天」と提携を深めた理由との対比

3-1. 楽天カード vs PayPay(PayPayカード)

みずほは楽天カードの国内最大規模の発行枚数、さらにはEC+ポイント経済圏とのシナジーを重視した。

 

一方、ソフトバンクはモバイル決済「PayPay」で大きくシェアを伸ばしており、クレジットカードのメインブランドはPayPayカード(旧Yahoo! JAPANカード)である。

  • 楽天カードほどの国内ブランド力には及ばないが、PayPayの登録ユーザー6,300万人超(2024年度末時点)というスマホ決済のネットワークは圧倒的だ。
  • とはいえ、みずほが「カード×証券」を一気通貫で押さえたかったという文脈では、楽天カード+楽天証券の規模が魅力的だったと言える。

3-2. 楽天証券 vs PayPay証券

楽天証券はネット証券の中でも口座数がトップクラスで、みずほが49%出資することで一気に証券ビジネスを拡充できた。

 

一方、ソフトバンクグループにはPayPay証券もあるが、楽天証券ほどの規模や知名度には至っていない。

  • みずほにとっては、ネット証券大手の楽天証券と組むほうが、リテール戦略を加速させる近道だったと推察される。
  • ソフトバンク側は「PayPay証券」「PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)」といった金融サービスをグループ内で展開しており、外部のメガバンクと大々的に組む必要性が相対的に低かったとも考えられる。

3-3. 通信キャリアとの連携ニーズ

楽天はEC・証券・カードを融合させる経済圏を完成させているが、通信事業としての楽天モバイルは赤字拡大が課題。

 

一方、ソフトバンクは通信キャリアとして国内屈指の安定収益を持ち、すでにPayPay・メディア・ECまでグループ内で一気通貫の仕組みを作りつつある。

 

みずほにとっては、通信キャリアとあえて組まなくても、楽天グループが揃える「EC×カード×証券」を取り込むほうが、銀行リテール業務の拡大に直結しやすかったという側面が大きいとみられる。

 


4. ソフトバンクが注力する「生成AI」と次世代インフラ

4-1. AI計算基盤への大規模投資

ソフトバンクはNVIDIA Hopper GPU(H100)やNVIDIA Blackwell GPU(B200)を大規模に導入し、国内最大級のAI計算基盤を構築。4,600億パラメーター相当の国産LLMを開発し、2025年度の商用展開を目指している。

  • 2024年10月末までに約4,000基のH100整備が完了
  • B200も世界最速クラスのタイミングで導入する予定
  • AI-RANやデータセンター構築など、次世代インフラへの投資がさらに加速

4-2. PayPay・LINEヤフーとのグループシナジー

通信と決済・メディアを一体運営する構図が特徴的である。PayPayは6年で登録ユーザー6,300万人を突破し、安定的に黒字化を継続。

 

LINEヤフーとの連携では広告・EC収益を強化し、メディア・EC事業の利益も伸ばしている。

  • Perplexity ProやLINEと連動した生成AIサービスを投入し、コンシューマ体験を刷新
  • ディストリビューション事業を通じてAIサーバーを外販するなど、法人向けICTビジネスも拡大

4-3. 「ディストリビューション事業」の台頭

法人向けにAIサーバーやクラウド商材を提供するディストリビューション事業が前年同期比+44%という大幅増収を記録。

 

ソフトバンクは通信キャリアだけでなく、IT流通の商社機能も急伸させている点が際立つ。

 


5. なぜ「みずほ×ソフトバンク」ではなく「みずほ×楽天」だったのか

  • 楽天はEC・カード・証券で国内トップクラスのリテール基盤を持つ
  • ソフトバンクはモバイル決済(PayPay)やEC(Yahoo!ショッピング)、証券(PayPay証券)などを自前で囲い込んでおり、外部メガバンクとの大規模提携ニーズが低かった
  • ソフトバンクは今、5G/6GやAI投資に注力し、モバイルビジネスを核としつつ「AI×通信」で非連続成長を狙う局面にある

みずほが掲げる「リテール強化」では、楽天が保有するEC・ポイント経済圏+ネット証券+カード事業のパッケージが最適解だったと考えられる。

 


6. まとめ

みずほが楽天を選んだのは、カード・証券・ECを一括で押さえられる「楽天経済圏」の魅力が大きかった。

 

一方、ソフトバンクは通信×スマホ決済×メディアを自グループ内で一貫運用しており、追加でメガバンクと大規模連携する必然性は薄かった。

 

ソフトバンクが2025年3月期 第2四半期決算で示した成長ドライバーは、以下のとおりである。

  • 通信キャリアの安定収益とモバイル契約数の堅調な増加
  • PayPay・LINEヤフーを軸としたキャッシュレス・メディア・ECの拡張
  • AIサーバーやAI-RANを含む次世代インフラへの巨額投資

今後も国内大手通信キャリアは、金融やECと組むか、自ら金融サービスを内包するか、あるいはAIやクラウドプラットフォームを新たな収益源にするか、さまざまな戦略を打ち出してくる可能性が高い。

 

みずほ×楽天連合とソフトバンクの路線はいずれも「デジタル×金融」であるが、具体的なアプローチや注力領域は異なる。

 

リテール金融を軸とするみずほと、通信×AIインフラを核とするソフトバンク。

 

それぞれがどこまで収益を伸ばし、マーケットから評価されるかは、今後の大きな注目点だ。

 

そういえば、楽天の三木谷会長は、日本興業銀行(現みずほ銀行)出身という事も、少なからず楽天とみずほの連携には影響しているに違いない。