ogurakaikei’s ブログ

会計・税務及び経済関連(時々雑談)

中世における渡来銭の流入と手形の発達(3/3)

 中世日本の信用経済の背後には中世社会独特の債権・債務関係が存在していました。中世社会では債権について国家による保証がなく、担保によって保護される要素も限られるため、脆弱であり、債務者の許容する範囲で保護されるに過ぎず、債権者と債務者の共存の理念のもとで多様な取引が成立しました。売買によって質権や質物所有権が否定されて自動的に他人の所有物になることはなく、質権よりも質物所有権が優位にありました。

 神仏への信仰が社会の基盤にあった中世社会では、神物・仏物と人物(自分のもの)との区別が優先され、人によるモノの私的所有概念はあいまいで、中世の請取状は、領収書にもなれば借用状としても機能する両義性をもっていました。中世社会のモノに対する支配権は、「職」という概念を媒介として、占有・保有・使用・収益・用益・財産権など多様で重層的な諸権利で成り立ち、複数の主体がそれを分割行使しました。当初は職務の観念であった「職」が、「職務的用益権」を含むようになり、最終的には職務負担付きの不動産物権となります。「職」の性格は、時代によって変化しますが、荘園の所職が代表的な「職」の形態で、それは中世社会の土地所有形態に関わります。中世の領主的土地所有は、古代の公定な領域支配権を墾田などの土地所有権が融合して形成され、公的支配権と密着して上級所有権が確立する一方で、百姓による下級所有権が「作手・作職」として成立しました。下級所有権者は、耕作を代行する「作人」をもち、「作人」による直接耕作のほかに、「下作人」に下請耕作させる場合もありました。作人・下作人は、耕作を預かって「職」を有することとなり、土地に対する一定の権利を保持しました。

 

参考文献

・日本経済の歴史(名古屋大学出版会)