「そごう・西武」の売却に伴う池袋本店でのストライキを受けて、セブン&アイの有価証券報告書を見たが、確かに百貨店事業はコロナ渦での苦戦が見て取れた。
ただ、直近では回復をしてきている様子も同時に見られ、事業として全く将来性がないということは決してないのではないかとも思っている。
競合他社の状況が気になり、そごうと同じく横浜駅にある高島屋の決算書を覗いてみようと思った。
高島屋も個人的には、思い入れがあるデパートであり、就職して最初にスーツを買ったのが高島屋だったと記憶している。
そして初めて自分名義で作ったクレジットカードは、赤い色をした高島屋カードだったと思う。
高島屋カードを使って、高島屋で買い物をすると、ポイントが数パーセント付くので、ポイントを貯めるために高島屋でスーツを買っていたという順番だったかもしれない。
自分が最初に作った高島屋カードは、年会費が必要だったこともあり、その後年会費が無料の楽天カードに徐々に軸足を移していき、どこかのタイミングで高島屋カードは解約してしまったのであるが、今でも食料品売場はたまに見る。
そごうと同じく、いつもデパ地下が激込みしている印象があるのだが、業績はどうなのであろうか。
高島屋の創業は、なんと江戸時代。
天保2年ということは、天保の大飢饉や天保の改革が直後に起こっているような時代である。
確かに、高島屋のあの赤い商標は、歴史に裏打ちされた厳かな威厳を感じるものである。
高島屋のセグメントとしては、「百貨店事業」とそれに紐づいて店舗の管理等を実施する「商業開発業」、そしてクレジットカードの発行等を含む「金融事業」、さらには店舗の内装工事等を実施する「建装業」が認識されている。
比較的、全てが「百貨店事業」を中心とした、シナジー効果を十分に考えた事業の布陣となっている印象を受ける。
各事業の売上はどうであろうか。
想像通り高島屋は、大半の売上が「百貨店事業」である。
2021年2月期、2022年2月期は、コロナ影響があるものと思われるが、2023年2月期の大幅な減少は一体なんであろうか。
(2021年2月期)
やはり、コロナ影響で臨時休業や、営業時間の短縮が続いていた時期である。
(2022年2月期)
2022年2月期も、変異を続けるしぶといコロナ影響を依然として受けている状況が見て取れる。
(2023年2月期)
2023年2月期は、まだ一部では影響を受けているものの、ようやくコロナ影響から抜け出しつつある状況が見て取れる。
そして、大幅な売上減少の影響が、収益認識基準の適用だということが分かった。
(2023年2月期)
会計方針の変更注記を見る限り、影響が大きいのが「消化仕入取引」に係る会計処理の変更の影響である。
端的に言えば、本人取引ではなく、代理人取引であると認識されたことにより、総額ではなく純額での計上となっているため、最終的な利益の額は変わらないが、売上が大きく減少しているのである。
つまり、デパートでは、これまでテナントで商品が売れる場合には、会計上デパートがテナントから商品を仕入れ、すぐに販売がされたものとして会計処理をしていたのである。
でも実際は、テナントが自ら在庫リスクを負って、消費者に販売しているのであって、デパートは実質的に場所を提供しているだけであり、そのマージンを受けているに過ぎない。
したがって、それは実際には消費者に商品を売っているのはテナントであって、デパートではなく、その取引は代理人取引でしょということで、マージン分が手数料としてのデパートの売上になるということである。
このため、収益認識基準を適用する前と比較して、大きく売上が減少することになるのである。
なお、計上される利益には、影響はないので、2023年2月期はコロナ影響からの回復に伴って大きく「百貨店事業」の利益が増加していることが分かる。
それにしても、コロナ前よりも利益が上がっているのは、物価の上昇もあるだろうが、景気は悪くないということなのだろう。
特に、お金を持っている人は、持っているということであろう。
その意味においては、「百貨店事業」の将来性もまだまだあるということなのだろう。
なお、デパートにおいても、よく訪日客によるインバウンド需要、爆買いということは言われるのであるが、一方で高島屋は海外展開はしているのであろうか。
見てみると、シンガポール、中国、ベトナム、タイに展開をしている模様。
特に、シンガポールは、既に30年の歴史もあるとのことである。
そういえば、昔シンガポールに行った時に、何かデパートがあったような記憶があるが、高島屋だったかもしれない。
(2023年2月期)
ただし、売上及び利益の規模は、日本国内の店舗と比べると、まだまだ小さく、全体の1割いくか、いかないかといったところである。
ただ、アジアも富裕層が急速に増えているから、カントリーリスクは存在するものの、今後成長の余地は十分にあるのであろう。
(単位:億円)
※総額営業収益は、便宜的に収益認識適用前の計上方法によるもの。
また、進行期である2024年2月期においても、増収増益を計画している。
足許の経済情勢を見る限りは、十分に現実的な計画と言って良いと思う。
(2023年5月期 第1四半期)
実際に、第1四半期の実績を見ても、堅調な推移が見て取れる。
「そごう・西武」、「高島屋」を見る限り、確かにコロナ渦で苦戦は強いられたものの、直近では回復が見られ、さらにコロナ影響前以上の可能性をも十分に感じられる業績である。
そう考えると、セブン&アイも売却をしなくても良いのにと思ってしまうが、そこは連結グループ全体の経営方針に則した経営判断ということなのであろう。
まだまだ、売却後のヨドバシをビジネスパートナーとした「そごう・西武」の展開が、見えないところではあるが、経営環境は良いに越したことはない。
そういえば、横浜駅には、そごう、高島屋、ヨドバシカメラがそれぞれ、大きい拠点を持っている。
個人的には、それぞれいい感じに配置されていて、引き続き共存して欲しいと切に願うものである。