横浜スタジアムへの臨場を契機に、DeNAの決算書を覗いたのであるが、せっかくなので他のチームの親会社の決算書も覗いてみようと思う。
どこが良いかと思っていたのだが、同じセリーグで直近2年間、連続優勝しているスワローズの親会社である株式会社ヤクルト本社を見てみようと思った。
今まであまり気にした事がなかったのだが、株式会社ヤクルトではなく、なぜか社名の最後に「本社」が付いている。
ヤクルトのHPを見ると、販売会社組織が全国に拡大した後に、統括する機関として設立されたという経緯があるらしい。
ヤクルトのセグメントであるが、DeNAのように「スポーツ事業」という形では残念ながら認識がされていないようである。
複数のスポーツに参画しているDeNAと異なり、プロ野球球団のみという状況であるから、セグメント識別に際して質的にも量的にも少し重要性が落ちるのであろう。
基本は、世界各国でのヤクルト飲料の販売がメインということがよく分かるセグメント。
ちなみに、世界各国への展開状況としては、アメリカや、中国、シンガポールにはじまり、UAEやヨーロッパにも進出している。
さすが、日本が誇るヤクルトである。
日本を含め、各地でのヤクルト飲料の売上は極めて堅調な推移である。
2023年3月期の研究開発費用は、93億円。
2023年3月期の営業利益が、660億円だから、絶え間ぬ研究開発への姿勢が感じられる。
これまでのノウハウと、多額の研究開発費が他社の追随を許さないのだろう。
特に、2023年3月期における、日本での売上と営業利益の増加は、際立っている。
これは、やはり最近話題沸騰の「ヤクルト1000」の販売好調に起因するとのこと。
確かに、自販機やスーパー、コンビニでも「ヤクルト1000」だけ売り切れている光景をよく見る。
そんな状況なので、残念ながら飲んだ事がないのだが、一度飲んだら止められない何かがあるのであろう。
もちろん、自分も店先で見つけたら購入して試してみたい。
また、他のヤクルト飲料よりも値段設定が高い中で、販売好調ということが、営業利益の伸びに表れている。
乳製品売上数量内訳を見ても、分かりやすく「ヤクルト1000」だけもの凄い売上数量の伸びが確認出来る。
発売開始からの販売本数の推移を見ても、綺麗な右肩上がりが確認出来る。
きっと、「ヤクルト1000」の開発チームは、表彰されていることだろう。
一方で、アジア・オセアニア地域の営業利益の減少が目立つ。
中国におけるロック・ダウン等の影響はありつつも、売上はほぼ横ばいか、むしろ2023年3月期では増加しているように見える。
(2023年3月期)
この要因は何かと有価証券報告書内を見ていたところ、アジア・オセアニア地域の減価償却費が右肩上がりとなっていることが分かった。
つまり、設備投資が先行し固定費が増加している中で、コロナ渦で十分に売上増加につながらない面もあり、利益率が落ちているということと理解した。
これについては、コロナ渦からの回復に伴って、順調に売上が増加すれば利益率もある程度改善するのではないかと思うのだが、不確定要素ではあろう。
なお、海外ではまだ「ヤクルト1000」を販売していないようなので、今後は生産設備を整えて展開していくのではないだろうか。
ここまでで、本業であるヤクルト飲料事業は基本的に順調であることがよく分かったのであるが、やはり「プロ野球興行事業」が含まれる「その他事業」についても見ていきたい。
ヤクルトは、1966年から既に株式を一部取得し、球団運営に参加していたようだが、フジサンケイグループの事業見直しの影響もあり、1969年に産経新聞とフジテレビから追加で株式を取得し、子会社化することにより球団の経営権を取得している。
「その他事業」には、プロ野球興行以外にも含まれており、その内訳は有価証券報告書からは分からないため、便宜的に合算された「その他事業」の推移を確認する。
やはり、2021年3月期と2022年3月期の売上がコロナ影響で大きく落ち込んでいるのは、DeNAの「スポーツ事業」と同じである。
また、営業利益も2021年3月期と2022年3月期に落ち込んでいることが、確認出来る。
無観客、または入場者数の制限を余儀なくされている中なので、当然の結果である。
(2021年3月期)
(2022年3月期)
しかし、ヤクルトもDeNA同様に2023年3月期で早速、売上、利益共に回復が見られる。
(2023年3月期)
しかも、2年連続のセリーグ優勝、日本シリーズ進出ということもあってか、その回復はDeNAよりも大きいように見える。
かつてのヤクルトの野村監督が書いた著書「弱者が勝者になるために」で、ヤクルトのオーナーはなるべくトレードやFAはしない方針であったため、今いる選手の才能を開花させ、また「野村再生工場」と呼ばれた他球団を自由契約になった選手を復活させる他無かったと、いわゆる「ぼやき」口調で書かれていた。
また、当時の野村監督時代に絶対的な抑えピッチャーであったヤクルトの現監督である高津監督の著書「一軍監督の仕事」でも、「育った彼らを勝たせたい」と書かれている。
ヤクルトが球団の経営を始めてから50年以上、ヤクルトには選手を大切にするという文化が根付いているのだろう。
そういえば、ヤクルトのファンも熱心な方が多いなと感じる。
ヤクルトはよく「ファミリー球団」とも言われるが、そういった雰囲気がファンを惹きつけるのであろう。
DeNAのスポーツ事業をビジネスとして成立させるという使命感とは、また少し違う円熟味を帯びたヤクルトの自球団への深い思いを感じて止まない。
また、それはヤクルト飲料という確固たる商品を、長期間に渡って大事に育て、絶え間なく進化させ、人びとの健康に寄与するといったヤクルト本社の姿勢に通じるところを感じる。