前回の記事で楽天の有価証券報告書を確認し、やはり楽天の「モバイル事業」はかなりの窮地であることを確認した。
このままでは、好調の「インターネットサービス」や「フィンテック」の運営にも影響を大きく与える可能性もある。
「モバイル事業」で大赤字であるのはもちろんであるが、問題なのは何より資金繰り。
「モバイル事業」に必要な投資額を、「モバイル事業」単体ではもちろん、他の事業で得た利益でも全く賄えていない状況である。
さらに、通信事業はここまで投資したら終わりということではなく、毎年多額の投資が継続して必要となってくる。
それまでに、楽天モバイルが契約数及び売上を伸ばし、既に投資した固定費を回収してさらに必要となる毎年の投資資金を稼がなければならないのであるが、現状の不安定な通信環境では楽天経済圏でのシナジーという点以外に、格安スマホのサブブランドも抱える他の大手キャリアとの圧倒的な優位な点は見つからず、達成へのハードルは高いものと思われる。
売上を上げるために、料金を上げたらそれこそ契約数が大きく減少し、本末転倒である。
現在の楽天モバイルのユーザーは、楽天経済圏の住人ではある可能性は高いが、一方で料金体系にシビアな感覚を持っていると想定される。
楽天経済圏内で毎日生活している自分も今の料金であれば、解約は全く考えないが、一定以上値上げとなった場合には他社への乗り換えを検討するであろう。
さすがに、三木谷会長も頭を悩ませているのではないだろうか。
ここで、ふと他のキャリアは、どうやって安定して通信事業を経営しているのか気になった。
現在、楽天とローミング協定を結んでいるKDDI株式会社の有価証券報告書を覗いてみよう。
KDDIは、1984年に設立されている模様。
やはり、通信事業を本格的に営むには歴史が必要なのだろうか。
少なくとも許認可制のビジネスであるから、かつては歴史と伝統と実績が必要であったのであろう。
KDDIのセグメントは、シンプルに「パーソナル」と「ビジネス」の2つ。
つまり、個人向けのサービスと法人向けのサービスということである。
なお、「パーソナル」には、金融事業も含まれており、そこも分けて欲しいところではあるが、現時点ではまだ別認識する規模には達していないということだろう。
売上とセグメント利益を見てみよう。
何の問題もなし。
コロナ影響も燃料高も人件費高騰も関係なし、と言っては言い過ぎかもしれないが、極めて安定した経営成績である。
利益率は、若干「パーソナル」が落ちているように見える。
これは、やはり政府からの要請もあり、格安スマホブランドを展開したり、低料金プランを拡充したりと物価高の中で、携帯料金の値下げ圧力が強かった影響があるのだろう。
それでも20%近弱の利益率を維持しているのであるから、やはり通信事業は強い。
それに加え、通信事業はスマホの普及により、金融事業やインターネットビジネスとのシナジーが極めて高い。
KDDIも金融事業を今後、さらに成長させていく方針である。
三木谷会長がどうしても、手を出したかった理由は良く分かる。
問題は、投資額が極めて多額でかつ、毎期継続して発生することである。
1984年に設立されたKDDIも継続して、多額(約6000億円)の設備投資が毎期必要なのである。
また、これはユーザー数の規模が小さいから少額の設備投資で良いということではなく、基本的には使われる人が多かろうが、少なかろうが、その場所にいるユーザーがその時スマホを使えないと意味がないわけで、基本的には設備投資額は同じだけ必要になる。
恐らく、三木谷会長は参入時においてこの設備投資額をより効率化し、抑えられるという目論見であったと想定されるが、実際の投資額及び今後の投資予定額を見る限りその目論見は現実とのギャップがあったと言わざるを得ない。
KDDIと楽天が同じ規模の設備投資をして、なぜKDDIは順調で楽天は窮地なのかというと、単純に楽天モバイル単体では当然であるが、楽天全体の売上と比較してもKDDIの売上は圧倒的に多額なのである。
楽天は、もちろん日本を代表する大企業であるが、通信キャリア大手と比較すると規模が全然違うということである。
したがって、対売上における設備投資割合を見ると、KDDIが毎期10%程度であるのに対して、楽天は30%以上の水準になってしまうのである。
だから、資金繰りに窮してしまうのである。
端的に言ってしまうと、楽天の規模は単独で通信キャリア事業に乗り出すには、結果的に足りなかったということであろう。
楽天モバイルはもちろん、楽天全体でも、ここから数年間で今のKDDIの売上規模に追いつくことが出来るであろうか。
個人的には、現実的ではないと考えてしまうのである。
であれば、必ず資金繰りに窮することになる。
むこう3年間で、1兆円の投資が最低でも必要になる計算だ。
もちろん、その後も多額の投資は続く。
既に、限界近くまで借り入れをしている楽天に、考えられる選択肢としては、3つ。
①儲かっている本業を切り売りして、資金を得る。又は、他社から楽天本体が出資を受ける。
②莫大な資金がある他社と「モバイル事業」を共同経営する。
③他社に「モバイル事業」を売却する。
①は、楽天単独で「モバイル事業」をやり抜く唯一の選択肢であるが、既に銀行や証券をIPOしたりと動いており、限界があるのではないだろうか。
他社から楽天本体が追加出資を受けたとしても、1兆円の設備投資が必要な3年間で、今のKDDIの売上規模に本業を含めても持っていけるだろうか。
今の楽天モバイルの料金は、確かに通信量が多いユーザーにとっては安いとは思う。
ただ、通信環境が脆弱で、これを3年間で改善出来るのかという点と、通信量がそこまで多くないユーザーにとって、大手キャリアの格安スマホと比較してそこまで圧倒的な料金設定と言えるのであろうか。
結局、設備投資が大手キャリアと同規模で必要になっている時点で、料金を低くするにも限界があり、頼れるのは本業とのシナジー効果という点のみである。
①で資金繰りが出来れば、それに越した事はないが、現実的には②又は③なのではないだろうか。
楽天経済圏の住人であり、かつ楽天モバイルユーザーである自分としては③の「他社へ売却して完全撤退」は出来れば避けて欲しいところではあるが、現実的には一番可能性が高い帰結な気はしている。
その際の売却先は、やはりKDDIが一番の候補になるのではないだろうか。
ただ、それだとKDDIの格安スマホブランドの一つになるだけかもしれない。
②の他社との共同経営の選択肢も楽天ユーザーからすると、是非とも検討して欲しいところではあるが、資金力が楽天よりもないと意味がない。
Amazonあたりが手を上げてくれると良いが、本業では完全に競業しており事業の売却ならあり得るかもしれないが、共同経営というイメージはあまりつかない。
ふと、KDDIの株主情報を見たが、トヨタが京セラと同規模でKDDIの株式を保有している。
トヨタは、どうであろうか。
四半期での利益が、1兆円を超えたというニュースを見たばかりだ。
トヨタがモバイル事業に単独で乗り出すことは、あまり考えられないが、共同経営であれば悪くないのではないか。
今一度、日本の大手企業に、大手3社で市場が独占され続けている通信事業の状況を考えて欲しい。
当初の楽天の目論見は、現実的ではなかったと言わざるを得ないが、現在の状況に風穴を空けられる可能性が少しでもあるのは楽天モバイルしかない。
金額規模的に国が一企業に資金を融通するレベルは完全に超えており、寡占市場に風穴を空けようとする事業を育てるのも、大手企業の役割ではないだろうか。
そうやって大手企業が支えた結果、今のKDDIがあるのではないだろうか。
今後の展開に期待する。
個人的には、トヨタに1票!!