トヨタ、日産、ホンダと自動車製造業を見てきたのであるが、せっかくなので軽自動車に強いスズキの業績も見てみようと思った。
スズキと言えば、軽自動車と、現在スズキの相談役である鈴木修氏のイメージが強いのではないだろうか。
40年に渡り、経営のトップを担いスズキを成長させてきた鈴木修氏のその経営手腕は間違いない。
そして、何よりも秀でているのはその人柄ではないだろうか。
40年に及ぶ長期政権であったのだから、当然良い時ばかりではない。
検査不正の問題が発覚し、謝罪会見をされている姿も思い出される。
鈴木修氏は決して、周囲を威圧するイメージはないし、逆に回りに媚びるイメージも全くないが、なぜか応援したくなる。
そんな稀有な人物だと感じられる。
全然関係ない話だが昔、上司が、クライアントに「この頭に免じて・・・」と薄くなった頭を叩きながら謝罪していたことを思い出した。
当然、これが通用しないケースも世の中には多々存在するだろうが、そんな風に年長者に謝られたらそれ以上厳しいことを言ってはいけないような気もしてくる。
これが、徳を積んだ人のなせる業なのかもしれない。
若干横道にそれたが、スズキ株式会社の有価証券報告書を覗いてみようと思う。
スズキは、トヨタと同じく元々は織機製作所らしい。
織機の製造と車の製造は、通じるところがあるのだろうか。
沿革における「わが国の軽自動車の先鞭をつける」との記載は、スズキの軽自動車にかける熱い情熱を感じる。
スズキのセグメントには、「四輪事業」「二輪事業」の他に「マリン事業」と「その他事業」が存在する。
「マリン事業」では、なんと、船外機(小型船に付けるエンジンと理解している)を製造販売しているらしい。
あまり、スズキで海関連のイメージはないが、エンジンつながりということなのだろう。
「その他事業」では、電動車いすや電動アシストカートなど、主に車開発に伴うノウハウを活かした事業が含まれている模様。
それでは、セグメント別の売上を見てみる。
もうほぼ、「四輪事業」。
セグメント利益はどうであろうか。
当然ながら、こちらも同じくほとんど、「四輪事業」。
2020年3月期~2022年3月期は、売上、利益共に落ち込みが見られるが、コロナ影響であろうか。
もう少し、詳細に見ていく。
四半期別の推移を見ると、顕著なコロナ影響が確認出来る。
2021年3月期の1Qは売上が大きく下がり、営業利益はほとんどない。
むしろ、この状況で利益が確保出来ていることが、スズキの強さを感じさせる。
それから2020年3月期の4Qと2022年3月期も、営業利益の落ち込みが見られる。
(2020年3月期)
2020年3月期に、新型コロナウイルスの感染拡大が開始。
(2021年3月期)
2021年3月期には、コロナ影響でインドの4月の販売台数がなんと0台という壊滅的状況。
完全に営業ストップだったのだろう。
(2022年3月期)
2022年3月期は、コロナ影響ではなく原材料価格の高騰の影響で減益となっているらしい。
しかし、そこからの2023年3月期の回復状況は、これまで見てきたトヨタ、日産、ホンダと比較しても順調と言えるのではないだろうか。
(2023年3月期)
2023年3月期は、他社と同じく為替影響でのプラス要因がやはり大きいものの、売上構成変化等も大きく増益に寄与している。
販売台数の回復と共に、海外での販売単価の上昇が増益に結び付いているようである。
それでは、海外を含めた地域別の販売台数状況を見てみる。
やはり、スズキの小回りが効く車は、欧州と言うよりもアジアで人気があることが分かる。
そんなスズキのアジア販売台数の中で、圧倒的な販売台数割合を占めているのが、インドである。
前述の通り、そのインドで2021年3月期には、コロナ影響で4月の販売台数が0台だったのだから、その影響は甚大である。
そして、このインド市場を開拓したのが、現在スズキの相談役である鈴木修氏なのである。
改めて記載するが、間違いなく優秀な経営者である。
また、車両価格の上昇であるが、ハイブリッドシステムの搭載車を広げていることも寄与しているのだろう。
ハイブリッド車は、運転していて本当にガソリンが減らないので、凄いなと個人的に思っている。
今後、世の中の車は、全て電気自動車になるのか、ハイブリッド車も残るのか、これは今後の歴史が証明するのであろうが、個人的にはハイブリッド車の燃費は凄いなと思っているし残すべき技術ではないかと考えている。
なお、スズキはハイブリッド車の拡大で満足をしているわけでは当然なく、トヨタとダイハツと共同で商用軽バン電気自動車を開発している等、毎年2,000億円程度の設備投資額もしっかりとかけている。
今後も間違いなく、スズキの車は進化を続けるのだろう。
それから、忘れてはいけないのが、ホンダのバイクと同様に、スズキが圧倒的な強みを持つ軽自動車の存在である。
やはり国内では、スズキの販売台数のうち軽自動車販売台数割合が8割を超えており、軽自動車の強さが際立つ。
最近の軽自動車は、安全性も高いし、車内の空間も広いし、それでいて車両価額も税金も安いという事で、経済合理性で考えると軽自動車一択なのではないかと思ってしまう。
なお、軽自動車はあくまで日本の規格なので、海外では軽自動車というカテゴリーそのものが基本的にはないらしい。
いずれにしても、日本の軽自動車市場で培った技術は、アジアをはじめ世界でも間違いなく受け入れられているのはインドでの販売実績を見ても明らかであろう。
(2024年3月期見通し)
2024年3月期も引き続き、販売台数の増加、販売価額の上昇を見込んでいるようであるが、同時に固定費の増加も見込まれている。
人件費を始め、固定費が増加するのは、昨今の情勢を鑑みると致し方ないところではあり、これを回収するために今後軽自動車の価額は上昇傾向になることが想定される。
それでも、まだお得感はあるし、何より税金が安いので軽自動車の優位性は維持されるであろう。
(2023年6月期 第1四半期実績)
2023年6月期実績では、順調に販売台数の増加、単価の上昇が達成出来ているように見受けられる。
為替影響は、個々の企業で対応できることは限られるが、この進捗であれば2024年3月期の業績も堅調に推移することが想定されるのではないだろうか。
先日、スズキのロングセラー車である「ジムニー」は、人気があり納車待ちであるため、新車よりも中古車の方が値段が高い状況であるという話を実際に購入した人から聞いた。
それならば、「ジムニー」の新車販売価額をもっと上げられるのではないかと単純に思ってしまうのではあるが、それをしないのがスズキの社風なのだろう。
それに加えて、自動車税、車検等の維持管理に係る費用の安さという圧倒的な軽自動車のメリットを有しているのであるから、スズキの業績が堅調なのもうなづける。
なんだか「お値段以上」のニトリと似たものを感じるのは、自分だけだろうか。
ちなみに、スズキの社是は「価値ある製品を」のようであるが、個人的にはこれを「お値段以上の価値ある製品を」が良いのではないかと思ってしまう。
高級車や最新の技術を搭載した車は魅力的ではあるものの、家の家具がほとんどニトリであり、その家具に心から満足している自分が、車を選ぶとしたらやはり、軽自動車じゃないかなと改めて思う。